1.研究開発の背景 

多様なステークホルダを含む社会システムを対象とした社会政策の立案手法を実現するには、社会的課題に関連する多主体の意思決定を表現した多視点行動モデリング・シミュレーション技術と、社会システムに内包されるビッグデータの獲得・推定技術が必要となる。ここで社会システムは、本来、大規模・複雑であり、しかもシステムを統一的に規定する支配方程式が存在しないという特徴を持つ。そのため、モデルドリブンアプローチでは、小規模データによる社会システムの基本的な特性評価までにとどまっており、また逆問題的にシステム解析を行うデータドリブンアプローチだけでは、得られた結果に対する根拠を示すことができないという技術的な課題がある。

2.研究開発の狙い

多様なステークホルダを含む社会システムを対象としたさまざまな社会政策を評価するためには、政策課題に適した意思決定を表現できる行動モデルを作成する必要がある。そこで、本研究開発課題では、エージェントベース社会シミュレーション(ABSS: Agent-Based Social Simulation)に着目し、社会システムを構成する多目的で多様な主体に対する多視点行動モデリング手法の実現を目指す。

また、エージェントの行動モデルに利用できる社会システムに関する実データは入手が極めて困難である。しかしエージェントの行動モデルの妥当性とエージェントのパラメータ推定技術がシミュレーション結果の信頼性の確保にとって重要となる。本研究課題では、日本全国の地域ごとの行動データの推定および産業構造に基づく就業者の行動データの推定のための技術を開発・発展させて、マルチスケールのABSSにおけるリアルな行動シミュレーションにより、実スケールの社会政策立案を目指す。

4.研究概要

まず探索研究では、個人のレベルから地域、社会のレベルまでさまざまな課題を包含する新型コロナウイルス感染症を適用事例として、感染拡大防止モデルと経済活動モデルをマルチスケールで統合したエージェントベース社会シミュレーション(ABSS)によるバランスのとれた政策実現の解析と評価を行うための基本技術を探究する。

 ここで開発する技術は、図2に示すように、フィジカル空間(特定地域)におけるエージェントのプロフィールの仮想データを人口統計に基づいてメタヒューリスティクスにより推定するデータ推定技術と、さまざまな政策評価や指標の妥当性評価のためのエージェントの行動モデル化技術である。これにより、実スケールの社会シミュレーションが可能となり、また多様なステークホルダより構成される社会システムの多視点行動モデルの評価が実現される。

​ ここで図2のフィジカル空間の対象としてはあらゆる社会システムが対象となり、超スマート社会全般への適用が可能となる。

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3.基本的な考え方

超スマート社会におけるIoTサービスプラットフォームでは、システム間の連携・統合による新たな社会的価値創出が目標とされている。本研究開発課題では、その実現に向けた方法論として、社会システムを構成する複数システム間のシームレスな融合を実現するためのエージェントベース社会シミュレーション(ABSS)による新たなシステムズアプローチと、社会システムに固有な階層性についても着目し、個人行動モデルなどのミクロモデルから産業構造などのメゾモデル、政策・経済評価などのマクロモデルを接続し、対象問題の特徴や狙いに応じてミクロ・メゾ・マクロモデルをバランス良く利用可能なマルチスケール社会シミュレーション手法を確立し評価を行う。

ここで、提案する超スマート社会を対象としたマルチスケールABSSによる社会政策決定のためのフレームワークについて図1に示す。ここでは、多様なステークホルダを内包した実社会を構成する多様な社会システムについて、個別システムへブレークダウンした後、個別システムにおける指標に基づいた支援シナリオシミュレーションを実施してアウトカムを推定し(アナリシス)、個別システムごとの複数のシナリオ分析の結果より全体システム評価を実施(シンセシス)する。そして、その結果より新たなシナリオを発想(アブダクション)して更なる超スマート社会の政策課題へとフィードバックし、このアナリシス−シンセシス−アブダクションのループを繰り返すことで、科学的根拠に基づいた社会政策決定を実現する。

 

5.社会的・経済的なインパクト

超スマート社会の実現には、サイバー世界と実世界を高度かつ有機的に結合させ、多種多様なステークホルダより構成される社会システムに特徴的な時空間の異なる様々な意思決定を柔軟に取り扱える新たなシステムズアプローチが必須となる。また超スマート社会の特徴として、異種のシステムより構成され、さらにそれらのシステム群は社会共通のマクロモデルを媒介とし、メゾ・マクロレベルにおいてさまざまな異種システムが混在しながら展開されるという一般的な階層構造を有しており、マルチスケール社会シミュレーションにより、異種システムがシームレスに融合された新たな超スマート社会のあるべき姿を指し示すことが可能となる。また、ここで研究開発するフィジカル空間におけるエージェントのプロフィール仮想データの人口統計に基づくデータ推定技術は、現実に即した実スケール規模の社会シミュレーションを実施する上で重要な役割を果たし、社会的ニーズも大きい。以上より、本研究開発課題に対する社会的・経済的なインパクトは大きいと考えられる。

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6.研究体制

 

 本研究開発課題では、研究開発代表者グループとともに、6つの研究開発グループ(a〜f)、さらに研究開発参画機関より構成される。それぞれの研究開発グループの研究テーマおよび代表者について、以下の図3に示す。

この図にあるように、本研究開発を進める上で、研究開発代表者を中心とする研究開発代表者グループを組織し、共同研究グループ内の全ての主たる共同研究者を集めた運営会議を定期的に実施して情報交換を行うことで、研究内容の重複や欠落を避けながら、機動的な研究開発を推進させる予定である。また、関連学協会の定期講演会やシンポジウム等でOS企画やセミナー講演等を行い、成果の共有や新たな知見の導入、外部へのアウトリーチや成果の実展開などを推進する予定である。